シングルファザーの子育てブログ

双子の女の子を育てるシングルファザーの奮闘劇。

ある男の話。②

(前回からの続き)

 

結婚を前に、親同士の顔合わせが行われた。

A子の母親は、開口一番に

結納金は幾ら貰えるんですか?」と言ってきた。余りにも非常識である。

他にも、口から出る言葉は金、金、金のことばかり、これには彼の父親も呆れていた。

 

帰りの車の中で、彼の父親は彼に

「お前、苦労するぞ」と一言だけ言った。

でも、後戻りは出来ない。

それに、婿入りする訳ではない。

結婚すれば、あの親とは別所帯となる。

あまり干渉しなくなるだろう。

 

 

10月の末、結婚式が行われた。

A子の招待客の中には、地元の市・県議会議員もいた。(もちろん、あの学会だ)

 

彼らの新居はアパートの5階

彼が探した。

出来るだけ、A子の実家から離れた場所で、

自分の実家に近い物件にした。

そうでないと、A子の母親が頻繁に来てしまう。それを避けるためだ。

(母親は運転免許を持っていなかった)

 

そうして始まった結婚生活。

日々、お腹が大きくなるA子,。

しかし、A子は家事をやらない。

いつの間にか、仕事も辞めていた。

 

ある日曜日、A子は朝から体調が悪いと言う

朝から横になったままだ。

彼はA子のために、お粥を作ってあげた。

その直後だった。

A子の父親がやって来た。

(A子が実家に電話をしたのだろう)

スーパーの買い物袋を手に持ち

「台所を貸せ」と言う。

 

買って来た食材を広げながら

鍋に目がいったのだろう、

「なに、これ?」

「A子の体調が悪いので、お粥を作ったんです」と彼が言い終わる前に、お粥を捨ててしまった。

「こんなもの食わせて、元気になる訳ないだろう!」と怒鳴り、何かを作り始めた。

 

さすがに彼も頭に来た。

「勝手にしてください」と言い残し、

出て行ってしまった。

 

「悔しかった」

彼は、悔しさで涙が流れた。

 

夜になり、家に帰ると、

「なに、あの態度は!」と言ってA子が怒っていた。

「それを言うなら、お前の親父だろ!」

彼も怒りが爆発した。

「あなたには、父の真心が解らないの?」

「ふざけるな!真心が解らないのはお前と

馬鹿親父だろ!」

しかも、ハンバーグなんて作って食べさせたらしい。体調不良にハンバーグ?

彼には理解が出来なかった。

 

それに、後で彼が知ったことだが

あの父は、娘が20歳になっても一緒に

お風呂に入っていたそうだ。

異常な父娘だ!

結婚前に知っていたら、絶対に結婚したくなかったそうだ。

 

しかし、彼は、

「子供が生まれれば変わってくれる」と

思っていた。いや、願っていたのだろう。

 

 

 

翌年の桜の開花日に女の子が生まれた。

彼は、我が子の名前を「咲(さき)」と名付けた。

・・・しかし、それにもケチを付けるA子の

親と親族。

この頃になると、A子の親族まで

しゃしゃり出て来るようになった。

何かに付けて彼に文句を言ってきた。

それを庇うわけでもないA子。

 

子供を産んでから、A子の性格は更に強くなっていった。

家では掃除もしない。

交換した紙おむつを丸めて、部屋の中に放置するので悪臭が漂う。

 

それに、酷いのは

彼は知らなかったのだが、

毎月、毎月、生活費が足りないと言っては

彼の実家に行って彼の母親から毎月5万円を貰っていた。

 

彼はその頃、国家資格取得のための勉強を

始めた。資格を取れば給料も上がるし、将来は独立開業も出来る。

頑張って、A子の親や親族を見返すつもりだった。

休みの日は、図書館に行っては勉強していた。

 

だが、それがA子には好都合だった。

彼がいなければ好き勝手に出来る。

彼女は子供を、自分の親に預けて

毎週、遊び回るようになった。

そして、いつも帰りは夜。

自分で夕食は済んでいると言って、彼には

買ってきた弁当を与えるだけだった。

 

ここまで来ると、彼も感づいていた。

ある日、彼女の財布の中を見ると、

給料日前なのに、10万円以上の現金が

入っていた。いつも、金が無いと言っていたのに・・・更にバックの中の小さなポケットの中には避妊具。

 

「やっぱり・・。」

ジワジワと怒りか込み上げる。

しかし、彼は何事も無かったように冷静にしていた。

 

翌日は日曜日、普段なら図書館に行く日。

しかし、その日の彼は、子供と3人で何処かへ出掛けることを提案した。

すると、A子は拒否する。

誰かと約束でも有るのだろう。

「実家に行く」といって準備をしている。

そこで、彼は

「じゃあ、俺も行くよ!」と言った。

すると、彼女の顔色か変わり、

「いいよ、来なくて!」

「勉強していていいから・・」

「用があるから・・」

彼は、「何か、隠しているだろ!」と言うと

慌てて子供のところに行って、抱き抱えて、無理にでも出掛けようとした。

彼はそれを制し、腕を掴む。

今までの怒りが爆発した。

パーンと一発、彼女の頬を平手打ちした。

 

窓を開けて、「殺される〜、殺される〜」と

何度も叫ぶ。

 

彼は、この女はマトモじゃないと思った。

こんな人間に振り回され続けた自分が

情けなくなってしまった。

A子は子供を抱え、逃げるように出て行った。

そして、夜になっても、 翌朝になっても 帰って来ることは無かった。

 

 

明くる日の事だった。  

仕事中にアパートの管理人から電話が有った。管理人さんは、

「奥さんが荷物を運んでいる。止めさせましょうか?」

彼は、どうせ着替え等を取りに来たのだろうと思った。

「良いですよ、放っといて」

「本当に良いのですか〜」

「はい。」

 

しかし、気になる。

その日、定時に会社を出ると、

急いで、アパートへ向かった。

 

アパートに着くと、階段の登り口で

奥さん達が井戸端会議をしていた。

「今日、引っ越しがあったみたいね」と

話している声が聞こえた。

 

まさか!

 

慌てて、階段を5階まで掛け上がり

ドアを開ける。

 

すると・・・。

 

部屋の中が何も無い。

 

冷蔵庫も、洗濯機も、家具も、

友達に結婚祝いで贈って貰ったテレビも、

しかも、彼の布団まで無くなっていた。

 

奥の部屋には、ゴミと一緒に

彼の服だけが山積みになって

いただけだった。

 

見事に何もかも消えていた。

銀行の通帳も、キャッシュカードも

持ち去られていた。

 

 

手持ちは数千円しかない。

もちろん、今夜、寝る布団もない。

 

実家に帰るしかない。

 

彼は、実家に帰って

大人になって初めて両親の前で泣いたのだった。

 

          ③へ続く。