シングルファザーの子育てブログ

双子の女の子を育てるシングルファザーの奮闘劇。

ある男の話。③

(②からの続き)

 

家財家具を全て持っていかれ、

アパートでは生活することが出来ずに

彼は実家で暮らしていた。

 

実家と言えども居心地は悪い。

 

ちょうど、彼が結婚して家を出た直後、 

彼の実家は家を新築した。 

親が新築した家なら良いが、彼の兄が建てた家。・・それに、彼の部屋はもう無い。

まるで、居候のような気分だった。

それに、近所の人と顔を合わせるのも嫌なものだ。

 

会社には事情を話した。

「多くの人が驚いた」

結婚式にはたくさんの人を呼んだ。

それが、僅か18ヶ月で離婚とは、

なんとも情けない。

 

そんなことから毎日が辛い。

特に、1歳を過ぎて、やっと「パパ、パパ」と話せるようになった子供と離れ離れになってしまったことが、何よりも辛い。

 

この頃の彼は、まるで抜け殻のようになってしまっていた。

無気力、何もやる気がしない。

 

会社の給料日の日、

A子親子は僕のキャッシュカードを持って

銀行のATMにお金をおろしに行ったらしい。

そうなる事が分かっていたので、彼は事前に

銀行へカードを使えないように連絡しておいた。

この時の彼は、会社で給与計算が担当だったので、自分の給料は現金支給の形に変える事が簡単に出来たのだ。

「カードが使えない!」とA子の母親は、銀行の窓口担当に暴言を吐いたらしい。

 

おかげで、銀行員にも事情を話す事になって

しまい、自分の給料は守れたが、気分は最悪だった。

 

 

そんな、どん底の時に、一通の郵便が届いた。

家庭裁判所からだった。

○月○日、○時、離婚調停が行われる 

知らせだった。

 

 

 

その日、彼は初めて裁判所に行った。

裁判というと、法定で裁判長が中央に座っていて、判決を伝えるといったような、

テレビで観たようなイメージしか無かったのだが、実際は年配の男女各1名の調停員と

会議室のような所でのやり取りだった。

 

相手からの要求は、

慰謝料1000万円

養育費 月々5万円

 

彼は、最初から要求を突っぱねた。

・・・慰謝料?

慰謝料を請求したいのは、自分の方だ。

 

慰謝料の請求については

調停員が説明した。

「あなたは、家族に構わず毎週出掛けて

一切の子育てを放棄している。更に暴力を振るわれた。」

 

・・・話がおかしい。

 

「毎週出掛けていたのは勉強のため、それを

勧めていたのはA子だ。A子をこそ、子供を親に預けて遊び呆けていた。それに、暴力は

一度だけ、出て行った日に平手打ちを一回だけしてしまっただけだ」と言った。

・・・全く、何処から1000万と言う数字が出たのか?

 

それに加え、彼は子供の親権も主張した。

 

しかし、親権については

二人の調停員が口を揃え

「子供は母親に育てて貰うのが一番。男性のあなたに子育てが出来ますか?無理でしょう! お仕事も有るでしょうし、子供が不幸になります」

 

  【男親と一緒だと不幸になる】

 

この言葉は、彼にとっては一生忘れられない言葉となった。

今の時代なら、こんな事を言う調停員はいないでしょう。

「男は働くもの、女が子育てするもの」

古い固定観念が、まかり通る時代だったのです。

それに、まだ1歳の子供には自分の意志がない。もう少し、大きくなっていれば・・。と

思わずにはいられなかった。 

彼は、支払いの条件に子供と定期的な面会を希望した。相手が面会させない場合は、支払を止める事も伝えた。

 

 

別室には、A子達が待機していたようで、

彼への質問が終わると、調停員達はA子の

方の部屋に行って、彼の主張を話していたようだ。

 

 

暫くして、調停員が戻って来ると、

彼に、決定した事を伝えた。

慰謝料1000万円は却下。

しかし、毎月養育費を5万円ずつ振り込むことを告げられた。

定期的に子供と面会させることを相手は約束した。

 

決定された内容が書かれている書類を

後日受け取り、彼の我が子への養育費の支払が正式に決まった。

面会を条件に、とも書かれていた。

 

 

 

その後、間もなく彼は実家から出て

ひとり暮らしを始めた。

必要最低限の家具、電気製品の購入で

彼が内緒で持っていた僅かな貯金は消えてしまった。

それに、給料も家族手当がなくなり、

所得税も多く引かれるようになり、

収入も減ってしまった。

毎月5万の支払いがキツい。

 

そこで、彼は夜も仕事を始めた。

夜の9時から夜中の2時まで、

慣れない酒場でのアルバイトだ。

毎日が寝不足で辛い。

しかし、子供に逢う日を思えば

我慢出来た。

それに、一人で夜を過ごすよりは

マシだったし、何よりも気晴らしにもなる。

たた、ひたすら子供に逢う日を楽しみにしていたのだ。

(彼はその後、このアルバイトを8年も続けた。しかも、この経験は、その後の彼に大きく役立つ事となった。)

 

 

半年過ぎたある日、

そろそろ子供にも逢いたい。

その時は、おもちゃをたくさん買ってあげよう。

電話をするのは嫌だったが、連絡をしなければ子供に逢えない。

意を決して、A子の家に電話をした。

 

電話には初めからA子が出た。

子供の様子を訊いたあと、面会をしたいと

伝えると・・・・。

「あなたに逢わせるとロクな子供に育たない。逢わせるつもりは無い」と吐き捨てるように言った。

「遠くから見るだけでも駄目なのか?」

「だから、何メートル先からでも逢わせるつもりは無い」

 

「それじゃ、約束が違うだろ! よし、それなら話が違うから養育費はストップする」と

彼は言って、電話を切った。

 

彼は酷く落ち込んだ。

あれ程、楽しみにしていたのに・・・。

翌月、彼は養育費を振り込まなかった。

 

すると、家裁から連絡が来た。

「養育費を振り込んで欲しい」と、

彼は、「面会を申し出たのに拒否をしている。約束が違うので支払いはストップした。面会をさせて貰えれば直ぐにでも支払う」と

伝えた。

「では、面会をさせるように伝えますので、連絡が有りましたら振り込んでください」と

言われた。

 

 

しかし、その後、

その連絡は何年経っても無かった。

 

 

 

世の中、離婚する若い夫婦は多い。

離婚の理由は人それぞれだ。

養育費を払わないと、人間のクズ呼ばわりされるだろう。確かに自分勝手なクズはたくさん居るのは確かだ。

・・しかし、この男は本当にクズなのだろうか?

 

 

毎年、彼は子供の誕生日には

「今年で○歳だ、大きくなっただろうなぁ」と思っている。

何年も、何年も、想い続けている。

 

 

 

あれから、何年も時は過ぎた。

ある日、彼はフェイスブック

娘のアカウントを発見した。

彼の心臓はバクバクと高鳴り、

指は震えた。

プロフィールの顔写真を見ると、目元が自分に似ていると思った。

投稿の記事を読んで、彼女は高校卒業後、

親元を離れ、今は好きな男性と横浜で一緒に暮らしているらしい。

花嫁修行中とのこと。

 

彼は、自分の娘が元気に幸せに暮らしていることに安堵した。

時間も忘れて、彼女の投稿した記事を読んでいた。「自分が父親です」と名乗り出るつもりも無かった。

幸せそうな娘の様子を遠くから見ているだけで彼の心は充分だった。

 

 

が、しかし!

 

知らぬ内に、「いいね」に彼の

指が触れてしまったらしい。

 

もう、翌日に見ようとしたら

ブロックされていた。

 

 

娘だって、父親の名前を知っているだろう。

きっと、母親からは、

「養育費も払わない最低の親だ!」と言われ

育ったのだろう。

それは、仕方の無いことだ。

とにかく、幸せそうで良かったと

彼は思うしかなかった。

これからも、彼は遠くから

娘の幸せを祈っているだろう。

 

 

 

その後、彼は再婚したのだが・・・

今、彼はシングルファザー

二人の娘を育てている。

彼は、死別でシングルファザーとなってしまった時。

あの時の調停員の言葉

【男親と一緒だと不幸になる】を思い出した。

 

「絶対に不幸になんてさせない!」

その思いで子育てをしている。

 

      ある男の話。終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・ここまで読んで

ある男の正体が分かってしまった人も  

いるでしょう。

 

 

そうです。

 

 

ある男。とは、

 

 

私です。