シングルファザーの子育てブログ

双子の女の子を育てるシングルファザーの奮闘劇。

僕と従兄弟の思い出。

家庭訪問も終わり、1年生になってからの

ドタバタ劇も少し落ち着いてきた。

2人も学校生活に慣れてきたようだ。

日増しに気温も高くなり夏の訪れを感じる。

夏休みの予定も考えなくてはならない。

 

そんなある日、僕はいつものように仕事帰りにスーパーに立ち寄り夕食の材料の買い物をしていた。レジに並んでいると、何やら視線を感じる・・。

人相の悪い男が僕をじっと見ている。

サングラスをして小太りで口元には髭。

あまり関わりたくない風貌だ。

「ん?、誰だ?」と思った瞬間、男の口元が綻び「元気かい?」と声を掛けてきた。

聞き覚えのある声!

子供の頃と少しも変わらない話し方。

 

父方の従兄弟の「保くん」だった。

何年ぶりだろう・・。

短い時間だったがお互いの近況を話した。

自分の事を話はあまり話さなかった彼は

最後に「俺は天涯孤独だから」と言って

去って行った。

寂しそうな後ろ姿に見えた。

 

「天涯孤独」・・その言葉が僕には重く響いた。彼は子供の頃、母親に捨てられたのだから・・。

 

保くんは、僕よりも1つ年上。

僕の父には兄弟が多くて、年の近い従兄弟が何人かいたが、その中でも一番気が合ったのが保くんだった。

毎年、夏休みになると着替えと宿題の入った大きなバッグを抱えて泊まりに来たものだ。

僕はそれが凄く楽しみだった。

夏休み限定で兄が出来たようで嬉しかったのだ。

 

保くんは僕と違って人見知りしない性格で

とにかく明るい子供だった。長く泊まっている間には、近所の友達とも直ぐに仲良くなって一緒に遊んだ。

野球をしたり、山にカブトムシを採りに行ったり、魚釣りをしたり・・・毎日が冒険の連続、まるでトム・ソーヤみたいだった。

家で宿題をしている時も、志村けんの物真似をして笑わしてくれた。

普段は大人しかった僕も、保くんが来ると一緒に騒いで遊ぶ姿を見て、僕の母は「まるで双子みたい」と言っていた。

双子と言うよりも、僕たちは名コンビだったのだ!

 

 

しかし、僕が小学4年生に進級した頃。

保くんのお母さん(父の妹=叔母)は若い男を作って家から出て行ってしまったのだ!

子供の僕には事情は分からなかったが、この事が原因で保くんの家とは親戚付き合いが無くなってしまった。

この年の夏からはもう、彼は泊まりに来ることは無くなってしまった。

いつもの夏休みとは違い、とても寂しかった。近所の友達も「あれっ、保、来ていないの?」と残念がる程だった。

何ががポカーンと抜けたような夏休みは、いつもの年よりも長く感じた。

 

2月期も始まって間もない土曜日の午後。

僕は保くんに会いに行くことにした。親にはもちろん内緒だった。

保くんの家まで行けば会えると思い、自転車に乗ってひたすら走った。

保くんの町内(隣の学区だった)に入ると細い川で何人か魚釣りをしていた。

魚釣りが好きな保くんだったので「もしや?」と思い近づくと、やっぱり!そこには保くんがいた。

「あれっ!」とビックリする保くん。

 

しかし、以前の彼とは何かが違うのに直ぐに

気が付いた。あの人懐こい笑顔は無くて、無表情になっていたのを良く覚えている。

「俺に会うと、おじちゃんに怒られるぞ!」

といきなり言われた。

直ぐに僕は「そんなことはないよ!」と言った。それしか言えなかった。

すると保くんは

「俺は、母ちゃんから捨てられたちゃったから・・でも、俺と達ちゃんは何があっても、いつまでも従兄弟同士だから・・」と言った彼の言葉は今でも忘れてはいない。

この時、1つ年上の彼が物凄く僕には大きく見えた。「うん。」としか僕には言葉が返せなかった。

 

 

その後、中学は同じ中学校だったのだが

その時は、僕には近づけないような人間に変わっていた。太いズボンに長い学ラン、頭には剃りコミを入れて(時代ですね!)授業中でも学校の中をブラブラしていた。

当然、学校の中ですれ違っても無視。時には睨んでくる。

僕も周りの友達には、あれが従兄弟とは言えなかった。

1度も言葉を交わすこと無く中学時代は終わった。

その後は、あまり良い噂は聞いたことがなかった。

 

~そんな昔を思い出した。

 

小学5年で母親に捨てられたショック。僕には想像も出来ない。

どんな事情だったのかは分からないが、子供を置いて出て行く親の気持ちは理解出来ない。そのせいで、彼の顔から笑顔が消え去った。きっと彼も親を恨み、救いの手を差し伸べない世の中をたくさん恨んで生きて来たのだろう。それは今でも続いているようだ。

「俺は天涯孤独だから・・」その言葉からでも僕には分かる。

 

 

僕は今、どうにか子供を育てながら生きている。妻が亡くなり、子供を施設に預けようとも思った事も何度もある。

でも、自分で何があっても育てようと決意したのは、少年時代の保くんの出来事があったからだ。

子供にとって親に捨てられる程、辛く寂しい事はないものだ。

子供の人格形成にも大きな影響があることは間違いない。

大人の勝手で子供を不幸にしてはいけない。

 

 

 

今日も娘達は賑やかに遊んでいる。

「お父さん!  見てぇ!」と言って2人並んで

歌を歌っている。

あの夏休みの僕と保くんのように・・。


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                                                    つづく